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#05 飛騨高山ゲストハウスとまる(岐阜)前編

THE OWNER INTERVIEW #05
飛騨高山ゲストハウスとまる(岐阜)/ 横関真吾さん・まどかさん

前編 高山でゲストハウスをはじめるきっかけ

本全国に増え続けているゲストハウス。ゲストハウスプレスでは、オーナーや運営者のみなさまにお会いして、ゲストハウス運営に込められた思いや目的などをインタビュー取材し、お伝えしています。個性あふれる宿たちは、「安いから泊まる」「旅の途中だから泊まる」という従来の安宿の概念を越え、ホテルや旅館とも違う新しい旅の概念を、あなたに教えてくれるかもしれません。

Vol.5では、岐阜県高山市に移住、子育てをしながら家族でゲストハウスを運営している横関真吾・まどか夫妻にインタビュー。高山でゲストハウスをすることになった経緯や思い、これからの展望などを聞きました。

(※2014年3月取材/全2回連載)聞き手:西村祐子(ゲストハウスプレス編集長)

店名の由来はシンプルに「泊まる」から「とまる」

−−− まず「とまる」というお店の店名ですが、どういう狙いや意味がありますか?

横関まどかさん(以下まどか): えっと・・・「泊まる」から・・・?

横関真吾さん(以下真吾):いろいろ考えたんですけど、最終的にはシンプルな名前がいいかなと。

まどか: 飛騨高山ゲストハウスの後ろにひらがなで「とまる」だとかわいいかな、と。英語でもいろいろ考えたんですけど、最終的にはそうなりました。

−−− まあ、泊まるから「とまる」なんだろうな、とは思ったんですけれど(笑)。

真吾:わかりやすさを重視したというのは確かにあります。

カナダで知り合い、ツアーガイド業に携わる日々

−−− お二人の出会ったきっかけは?確か、カナダでお知り合いになったんでしたよね?

真吾:はい。僕らもともとは、カナダのバンフにいて同じ会社でツアーガイドをしていました。1996年にカナダに行って現地で知り合い、2人とも帰ってきたのが2006年頃ですね。

−−− 行き先がカナダだったのは、山が好きだったから?

真吾:カナダへはワーキングホリデー制度で行ったんですけど、その頃は、やっている国がカナダとオーストラリア、ニュージーランドの3カ国だけだったんですよね。当時すでにオーストラリアとニュージーランドへは4ヶ月くらい行ったことがあったんです。

「ツアーガイドをしたい」っていうのもあったんですけど、「行ったことないところに行きたい」と、流れで行ってしまって。なのでカナダにそんなに長くいるとは思っていなかったです。

−−−なるほど。わりとそういう気軽な気持ちで行くほうが続いたりしますよね。例えば、どうしてもここに行きたい!みたいな気合で移住しても、わりとすぐ撤退しちゃったりだとか。そうではなくて「流れ着いて、たまたま来ちゃったんだけど、気がついたら10年いました」みたいな人のほうが多いと聞いたことあります。

まどか: わたしはカナダへは当初インターンシップというので行って、小学校で日本語を教えていました。そのうち「もうちょっとカナダにいたい」と思って仕事をさがしたら、奇跡的に働けビザを出してもらえたので、ツアーガイドの仕事をしていました。

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山が好き。シンプルな理由で高山に決めた

−−− ゲストハウスをやろうと決められたのは、帰国してご結婚されてからですか?

真吾:カナダから帰ってきて3年位経ってたんじゃないかな。海の近くに住もうか、と鎌倉に1年くらい住んで。

まどか: 鎌倉のような海に近い生活に憧れていたんです。でも結局1年間一度も海に入らなかった。やっぱり山が好きなんだなと思って、それで山の近くに住もうということになりました。

−−− お話をお聞きして思うんですが、聞けば聞くほど、「とまる」というシンプルな宿名にした理由もわかるような気がします。欲望のままに動いてるというか・・・。

真吾:思いつきでね。

まどか:そうそう。好きなところに住んでっていう。

−−− 実はそのことって、結構すごいことだと思うんです。そんな風に動いている人からみると、意外に思われるかもしれませんが、「好きだから行ってみて、住んでみた」って、素直にそのままやれない人のほうが多い。

真吾:基本、僕らはそれが多いですよね。「やってみたい、やってみよう」っていう。やるまでに「やってみたらどうだろうか?」とかあまり考えない。もともと山登りは好きだったので、その後鎌倉から長野県の茅野市に移って結婚、地元のリゾートホテルで数年働いていました。

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成り行き、自然体の強さ。

真吾:ゲストハウスをやろうと思ったのは、ホテルに入ってから1年目位だったかな。何かしら夫婦ふたりで(事業を)やりたいなっていうのがありました。カナダでツアーガイドも長くやっていたので、旅行関係、案内したり・・・という考えは、漠然とあったのですが、なかなか夫婦でできる仕事っていうのもなくて。

まどか:直接的なきっかけというのはなかったのですが、でもその頃もうゲストハウスをやることは決めてたような気がします。当時わたしは長野の精密機械の会社の派遣で、普通に会社員してました。

−−− 高山でゲストハウスをしようというのはどういう理由だったのですか?

真吾:実は、高山へは、移住を検討する前にふたりで来たのは1回だけの土地勘だったんです。ただ、やっぱり山が好き。長野にいたのもそれが理由で、宿は地方のまちを案内する仕事でもあるわけだから、せっかくなら自分たちの好きなところがいい。

「自分たちが見たいところを一緒に見てもらいたいな」と思っていて、長野を中心に行ったことがある場所をいくつか当たっていました。それに以前海外住んでいたこともあって、海外の方には日本らしさを感じる場所を案内したいとも考えていました。

まどか:カナダで外国の人にお世話になっていたので、そのお返しがしたいなと思って。恩返しではないですが・・・。まだ慣れていない場所でも自分がお客さんをツアーに連れて行って添乗員さんとは別にガイドとして先に立つ場合もあるんです。そんなとき現地の人に聞いたりして手助けしてもらいました。

−−− そんな風に、過去に親切に助けてもらったりした、そういうことの逆バージョンがやれたらいいな、という考えもあったんですね。

まどか:そうですね。

−−− 改めてお聞きしてみて、お二人の考え方や行動ってすごく素直でいいですよね。住みたいところがあれば理由なんてなくてもいいのに、「交通の便が悪いから」「通勤が遠くなるから」なんて言って、もっとちゃんとした理由がないと、そういう自分の好きなところに住んでは「いけない」っていう、自分への制限みたいなものを、勝手に、誰にも言われてないのにつくっちゃう人が、世の中すごく多い気がするんです。それで人生が生きづらくなってしまってる人もいる。

だからお二人のように、「成り行きでこうなりました」と聞くと、「ああ、そんなんでいいんだ」「素直にやりたいことやればいいんだ」と、そんな風に感じてもらえるといいなあ。

真吾:取材でインタビューを受けると「どうして高山だったんですか?」と聞かれるんですよ。もちろん高山が好きで来たっていうだけなんですが、目的を暗に求められるというか。

自分たちは「高山で町おこしをしたい」のような考えは特になくて。僕ら出身がそれぞれ東京と大阪なんで、「なんでだったかな?」と考えたりはするんですけど、結局、飛騨高山が好きだからってただそれだけなんですよね。それを高山の人に言うとちょっとびっくりされたりするんですけどね。

高山で物件探し、駅前で開業。

−−− 高山駅から徒歩2分と立地のよい場所ですが、この物件に会うまでは時間がかかりましたか?

真吾:3ヶ月くらいは探しました。物件も10〜20軒くらいみたかな。他は結構遠かったり、物件的に廃業した旅館などを紹介されて、イメージしていたのとは違っていて。

−−− 駅近で見つけようという意図はあったんですか?

まどか:はい。もう立地はかなり重視しましたね。

真吾:長く空き家だったんですけどその前は洋服屋さんでした。前が店舗で奥が事務所。大家さんが横から入って、二階に住んでたというような感じだったようです。物件を見たときは、すでに駐車場になっていましたが、よく見ると、当時のショーウィンドウが残っていたりします。

−−− アットホーム感がある素敵なインテリアですが、この内装へのこだわりはどんなところでしょうか?

まどか:あまり以前の雰囲気を壊しすぎないように意識しました。築70年は越えていて、もともととても大切に使われていてきれいだったので。

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地域に溶け込む努力は「雪かき」から

−−− 移住してこられて、その後ゲストハウスを開業されたわけですが、地元の人と移住して来た人とで軋轢(あつれき)のようなものはありませんでしたか?地域によっては地元のしがらみとか、来た人に対して若干排他的なところもあったりすることもあるとよく聞きますが。

真吾:高山は、地方ではありますが、そうはいっても結構大きな町なので、そういうのはあまり感じたことがないですね。

まどか:全然そんな雰囲気は感じたことないです。強いて言えば、最初の頃だけ近所の人に「どこのヤツがきたんだ」みたいに見られていた気もしますけど、冬に進んで近くの道路まで雪かきしたりして。そうすると一気に認めてもらえたというか。あとはゴミ捨てをきっちりするとか、そういうことは重要ですね。

真吾:町内会の決まりごとをきちんと守るなど、当然ですが、きちんとそうやっていろんな場面で地域と関わるというのは大事だと思います。

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外国人が多い高山、その特徴。

−−− 飛騨高山へは、最近タイやマレーシアからの観光客も多いと聞きました。

真吾:はい。高山全体として、冬はアジアからのゲストが多くて夏はヨーロッパが多いですね。あとは、年間通して台湾やオーストラリアの方も多いです。

−−− そういう方は、上高地などの山岳地域を目的とされていますか?それとも高山自体に興味があって滞在されているのですか?

真吾:冬場は1~2泊と短めの滞在が多いんですけど、夏は上高地などと合わせて、山のほうに行ってて3泊とかって人も増えてきます。

高山は自治体としてインバウンドに力を入れているので、白川郷とか高山の知名度はかなり高いようです。なので外国人観光客が以前に増してすごく増えている実感がありますね。

−−− 日本がちょうど今海外からの入国者数が1000万人になろうとしていますね。10年前からの計画がようやく達成する。その後はオリンピックまでに3000万人を目指すというのが国の計画になってますよね。

まどか:今でも結構いっぱい来てる感じなのに、3倍になるのはちょっとすごいですね。

真吾:そうすると、今年(2014年)は50人に1人は高山に来てる計算ですね。 

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海外からの観光客の興味は、日本人では想像できないところにもある

−−− 東京も浅草あたりは最近すごいですけど、大阪も今道頓堀なんてとにかくすごい人で。タイとか マレーシアの観光でのビザなし措置が契機になっているみたいです。2013年の秋ぐらいに緩和になってそれから 前年比170%ぐらいになっているようです 。LCC(ローコストキャリア:格安航空会社) が今すごい勢いで躍進しているので、安い値段で日本に来られて、それでさらに 。

まどか:今やわりとマイナーな駅にもバックパック背負った人がいますもんね。この人たちはどこへ行くんだろう?なんて思ったりします。

−−− 日本人には想像がつかないような興味を外国の人は待ちますね。高山はわりと「日本的」ば古い町並みなどもあって想像しやすいほうかもしれませんが。

例えば新幹線に乗りたい人がいたりするんですよね。 速いというだけではなくて、形がかっこよくて揺れない写真撮りたい、なんていう需要もあったりします。

今後どうなっていくのか。そういう意味で、インバウンド対応に関して高山は、日本国内でかなり先端を走っていますよね。

真吾:そうですね。 高山には10数カ国語の地図があったりします。英語があればなんとかなりますけど、やはり母国語があると嬉しいってみなさんおっしゃってます。

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−−−(THE OWNER INTERVIEW #05 後編に続きます)

次回のTHE OWNER INTERVIEW #05 後編では引き続き飛騨高山ゲストハウスとまる・横関真吾さんまどかさんの宿へのこだわり、子育てしながらの経営や地域との繋がり方についてお話が続きます。どうぞお楽しみに!

飛騨高山ゲストハウスとまる http://hidatakayama-guesthouse.com/

JR高山駅・バスターミナルより徒歩2分。ドミトリーは飛騨の職人さんに特注した二段ベッドで寝心地抜群、和室の個室もあり。アットホームなラウンジの雰囲気も心地よい一人旅からファミリーまで安心して泊まれる宿。

〒506-0026  岐阜県高山市花里町6-5
TEL:0577-62-9260(受付 8:00~11:00/16:00~21:00)

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西村祐子 / ゲストハウスプレス編集長  : 「好きなことをして生きる」を実践するべく活動するライフクリエイター。2017年より神奈川の海辺から大阪にUターン。現在はあたらしい旅と暮らしの発信基地Wanderers!の運営をはじめ、 旅にまつわるさまざまな事業プロデュースを行っている。http://moanablue.com/life