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#05 飛騨高山ゲストハウスとまる(岐阜)後編

THE OWNER INTERVIEW #05
飛騨高山ゲストハウスとまる(岐阜)/ 横関真吾さん・まどかさん

後編 夫婦で子育てしながらゲストハウス運営する苦労とメリットとは?

本全国に増え続けているゲストハウス。ゲストハウスプレスでは、オーナーや運営者のみなさまにお会いして、ゲストハウス運営に込められた思いや目的などをインタビュー取材し、お伝えしています。個性あふれる宿たちは、「安いから泊まる」「旅の途中だから泊まる」という従来の安宿の概念を越え、ホテルや旅館とも違う新しい旅の概念を、あなたに教えてくれるかもしれません。

Vol.5では、岐阜県高山市に移住、子育てをしながら家族でゲストハウスを運営している横関真吾・まどか夫妻にインタビュー。高山でゲストハウスをすることになった経緯や思い、これからの展望などを聞きました。

(※2014年3月取材/全2回連載)聞き手:西村祐子(ゲストハウスプレス編集長)

夫婦2人でスタート、子育ても流れのままに。

−−− 高山に来られて、ゲストハウスをスタートされたのは、子育てのことも視野に入れておられたのですか?

横関真吾さん(以下真吾):いえ、もともと子供のことを考えてというよりは、「とにかく夫婦でできる仕事を」っていうのがありました。でも子供ができたことで、まわりの人との距離も一気に縮まった感じもします。

ゲストハウスを始める前から、鎌倉ゲスさん(鎌倉ゲストハウス)と交流があって。あちらはもともとお子さんがいるなかで経営されていたので相談させてもらったら、「大丈夫、お客さんが子供の面倒をみてくれるから」なんて言って後押ししてくれました。

−−− ふたりで運営されていたときはゲストハウス内に住んでいて、最近住まいを別にされたんですよね?

横関まどかさん(以下まどか): はい。息子は今2歳なんですけど、1年半くらいで出たのかな。

ここでずっと育てたんですけど、やっぱりだんだん歩いたりし始めると「ちょっと狭いな」と感じたのと、あと夜は、日によってはラウンジ内が遅くまでワイワイと盛り上がることもありますよね。その隣では子どもが寝られない、っていうのもあって。

真吾:寝ずに遊びに行きたがるんですね。楽しそうだから「何でぼくだけ寝るの?」ってなっちゃう。

まどか: そうそう!

−−− そうか、うるさいから寝られないではなくて、一緒に遊びたくなっちゃうんですね。

息子はゲストハウスネイティブ。外国人がいて当たり前の世界

−−− 相談してみて「大丈夫だよ」と言われてスタートした子育てしながらのゲストハウス運営ですが、やってみていかがですか?苦労したことはありますか?

まどか: やっぱり大変は大変でしたね。だけど、子供が生まれてすぐにすごくたくさん世界の人と会っているというのは、なかなかない貴重な経験で、すごいことかなと思うんです。家族じゃない人に抱かれて、そうやって育っていくと思ったら、おもしろい子に育つんじゃないかなと思って。

−−− 彼はもう生まれた頃からのゲストハウスネイティブですね !どんなふうに育つのか楽しみだ!今後、息子さんをどういう風に育てたい、というような理想はありますか ?

まどか: みんなかわいがってくれるし、たくさんの外国人に出会えるこんなおもしろい環境はないと思うので、それをプラスにして、英語とか多国語できたりとか自分のものにしていってもらったらいいかな。

真吾: 逆にふだんあまりに普通にいろんな国の人がいるから、「外国の人」っていう特別な意識がないかもしれないかもしれないです。

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子ども好きや子育て世代もゲストハウスにやってくるようになった

まどか: 生まれる前はやっぱり赤ちゃんが泣いたりしてゲストさんに迷惑かけるかな?と思ってたりしたんですけど、いてくれるほうが子どもの話題にもなるし、逆に助かるくらいです。

真吾: 子どもがいるの知ってて来てくれる人もいるぐらいだから。前にゲストさんでマレーシアから来たちょっと見た目が強そうなお父さんがいたんですけど、そういう人が息子を見てもうニコニコになっちゃったりして。

−−− 利用するのは子供連れやファミリーも多いですか ?

真吾: 小学生からドミトリーもOKにしています。(2018年現在は中学生以上に変更)個室のほうは何歳からでもOKにしていますね、本当に海外の人とか本当に1歳児でも連れてくるから。

−−− ですよね!バックパックの後ろに子供を背負って2ヶ月くらい日本一周している外国のファミリーを見たことがあります。

まどか: 海外の人達はほんとすごいですよね。以前、旅に子ども用の簡易ベッド持ってきているお父さんもいました。

真吾: 例えば海外の子連れゲストさんが子どもを上の部屋で寝かせてるんですけど、寝かせたまま下のラウンジに降りてきたりとかして、わりとほったらかしですよね。で、日本のお客さんが「上で泣いてますよ」って言いに来たりして。

うちも子供を連れて、他のゲストハウスに泊まりに行ったことがありますが、バックパッカーで旅をしていた人が、これから「将来もこういう宿に泊まりたいけど家族連れだから・・・」って躊躇する人も増えてくると思うんです。僕たちはそういう人の受け皿になっていけたらいいですね 。

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地元の移住者をつなぐ月1イベント「ひだマンデー」

−−− 家族より前ですが、出会いもゲストハウスでという人がいますよね。「とまる」で出会って、結婚した方もいますか?

まどか: 結婚まではまだうちでは聞かないけど、カップルになった人たちはいますね。お客さんと地元の人とか。ひだマンデーで知り合ったりだとか。

−−− 「ひだマンデー」について教えてください。はどんなきっかけでスタートして、何をされてるのですか?

真吾: 宿をオープンした当初、ぼくらも Iターンだったし、知り合いも少なかったんですね。それで年末を迎えたときに、知り合った人を集めて、ありがとう的な忘年会をしたんですよ。

それがきっかけで「楽しいね、またやって」という話になり、じゃあゲストさんも呼んで地元の人も呼んで集まろう、と今のかたちでスタートしたのが「ひだマンデー」です。月に1度、月曜の夜に集まっています。

最初は参加者も地元の人だけだったんですが、やってみてわかったのが、意外と地元同士でもお互い知らなかったりするんですね。僕らも知り合いがいなかったんで、これをやることで、知り合いもどんどん増えて、楽しいだけでなく、情報をもらったりしています。

−−− 月1回、今までずっとやってるんですか?

真吾: そうですね。だからもう20何回かやってますね(取材時2015年時点)。参加者はだいたい10人くらい。キャパの問題もありますが、それ以上になると場の収拾がつかなくなるので15人くらいまでで開催しています。

食事は一品持ち寄り方式で。参加者は最初は地元の人が多かったのですが、最近はIターンで移住してきた方や、仕事で高山に来た人が「仕事上の知り合いしかいないから」という理由で、地元の知り合いがもっと欲しいと来てくれることが増えました。もともと高山出身っていう人は少なくなってるかもしれない。

−−− 移住者同士の知り合うきっかけになってもいるんですね。Iターンの方は増えてるんですか?実感としては増えてる?

真吾: 前と比べる、というのはできないですが、増えてる気がします。移住者で多いのは、飛騨は木工が有名なので木工の学校に来てたり、学校卒業後そのまま就職したりだとか。なので木工関係の人が多いかな。

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ひだマンデーでの楽しい様子(とまる提供)
ひだマンデーでの楽しい様子(とまる提供)

間口を広く、地元の人にも旅行者にも親しみやすい場所に

−−− 今後、「とまる」をどういう風に運営していきたいですか?

真吾: そうですね。近々というのはないのですが、「ひだマンデー」をやって、地元に知り合いが増えたので、そういう人と一緒になにかおもしろいことをやれたら、という思いはありますね。

まどか: 観光客の人にもっと役立つソフトづくりとか。

真吾: たとえば、高山に来て、(近隣で世界遺産の)白川郷を見に行くだけだと、その人が、次にここに来るのは何年後か?となりますけど、高山には伝統のあるものがたくさんあるし、隣の飛騨古川にも、よい文化も根付いている。そういうものを紹介するようなことがやれたらな、なんて思ってます。

−−− 昔カナダでツアーガイドをされてましたが、例えばそれに近いものをやりたいという気持ちもありますか?

まどか:はい。それも高山でゲストハウスやるひとつの理由だったと思います。外国の方に、白川郷とか上高地とか、いろいろ日本の中でも素晴らしい場所を案内できるところがあるのが魅力のひとつでした。今のところ、ツアーをやる計画はないですけど、もともと好きな仕事なので、いつかガイド業的なものをやりたいなっていうのはありますね。

−−− 一緒に山を歩くというのでなくても、いい形での紹介、関わり方ができるといいですね。宿の運営についてはいかがですか?

まどか: 今まではずっと家族だけで運営していたのですが、2014年からはヘルパーさんにも入ってもらってます。スタッフが入ることで他のことができたり、宿の雰囲気も変わったりするので。

−−− 今の規模は、ドミトリーが2つと 個室が1つの15名定員で3部屋、ご夫婦で運営されるにはちょうどよいサイズですよね。

真吾: ゲストハウス用の物件を探したとき、最初は元ビジネスホテルとか旅館なんかを紹介されたんです。ここよりももっと大きい物件を紹介されて、「それは無理」みたいな。

−−− こういう普通の家や店舗を使って改装するっていうイメージが、不動産屋さんになかったんでしょうね。かといってわかりやすくするために「民宿をやる」と伝えてしまうと、今度は「和室」?ってなってまうし。

真吾: 元店舗っていうのがいいなと思っていました。そうすると、お客さんが出入りしやすいから。

まどか: ゲストや地元の方も含めて、入りやすさを重視しています。今は寒いのでカーテンで覆っているんですが、夏はそれも取ってガラス戸にしてるんです。外から見えるようにと、入り口がガラス戸にするのはこだわりのひとつです。

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子連れにもやさしく、自分たちも成長できる新しい宿のスタンダードをつくりたい

まどか: 子どもが2歳になってイヤイヤ期が始まったんで、お客さんが満床で詰まってるときはちょっとドキドキします。そういうときは、子どもを連れて家に帰ったりします。「かわいい」って言ってくれるけど、ホントは苦手っていう人もいるとは思うんで、そこは少し気遣いますね。

−−− 逃げ場というか、逆に職住完全な一体ではなく、近くに宿とは別にお家があるのは、まどかさんの精神衛生上もよいですよね。

まどか: 今、ゲストハウスを始めている人は、比較的若い人方が多いですよね。今は独身でバリバリやってるけど、きっとこれからやっぱり結婚して、子どもができてという流れになる。そういう人にアドバイスのようなものが求められたら答えられるような存在でいられるといいな、と思います。

−−− ひとつのモデルケースとして、家族でやるのにいい規模とか、家族経営をする上での工夫としてきっとよき見本になるんじゃないでしょうか。

まどか:  わたしたち自身も40代なんで、ゲストハウスの雰囲気として「いえーい!」みたいな元気なノリは、ちょっと厳しいですよね。落ち着いていて、子連れにもやさしくて、お客さんがほっとできる宿であるといいかな。

−−− そうですね。わたしも同じくなので、一階に広い共有ラウンジがあって、親しめる雰囲気があるのが好きなんであって、ゲストハウスが好きイコールドミトリースタイルが好きというわけでもないんですよね(笑)。

例えばもっと個室があるゲストハウス、シャワートイレとかは共同でもいいけど、もう少し自分の空間があって、さらにこういう共同スペースもあってっていう宿が増えたらうれしいなと個人的には思います。

真吾: そういう流れも含めて、これからまた新しいスタンダードをつくっていけたらいいですね。

−−− インタビューここまで −−−

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2号店「Tomarotto Hostel」ができました!

インタビュー取材から3年近く経ち、その後ゲストハウスとまるでは、二号店の計画が立ち上がり、2018年春、「Tomarotto Hostel 」(とまろっとホステル)がオープンしました。

「ゲストハウスとまる」とも近い駅から徒歩5分の立地、今回は一軒家ではなくレトロビルを改修した交流スペースつきのゲストハウスです。

開業にあたっては地元建築士さん協力のもと、改修ワークショップを開催。今まで宿泊してくれたゲストの方や友人の力を借り、出来るところはDIYで、8ヶ月かけてゲストハウスに改修しました。

1階は「harubaru」という宿泊者以外も利用できるコーヒーやビールが飲める交流スペースになっており、地元の方との交流やイベントにも使える場所となっています。2階に個室3部屋とドミトリー2部屋。個室が多めなので家族連れにも使いやすいですね。横関真吾さんは「Tomarotto Hostelは1階のスペースが広いので、宿泊するだけでなく、みんなが気軽に集える場所を目指しています。」と話しています。

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飛騨高山ゲストハウスとまる と Tomarotto Hostel、ともに横関夫妻のすてきな感性と気遣いが反映された空間。ぜひみなさんも飛騨高山に訪れる際には訪れてみてください。

−−−(了)

次回のTHE OWNER INTERVIEW #06は、和歌山県高野山にあるKoyasan Guesthouse Kokuu(高野山ゲストハウスコクウ)の特集です。どうぞお楽しみに!

飛騨高山ゲストハウスとまる http://hidatakayama-guesthouse.com/

JR高山駅・バスターミナルより徒歩2分。ドミトリーは飛騨の職人さんに特注した二段ベッドで寝心地抜群、和室の個室もあり。アットホームなラウンジの雰囲気も心地よい一人旅からファミリーまで安心して泊まれる宿。

〒506-0026  岐阜県高山市花里町6-5
TEL:0577-62-9260(受付 8:00~11:00/16:00~21:00)

Written by

西村祐子 / ゲストハウスプレス編集長  : 「好きなことをして生きる」を実践するべく活動するライフクリエイター。2017年より神奈川の海辺から大阪にUターン。現在はあたらしい旅と暮らしの発信基地Wanderers!の運営をはじめ、 旅にまつわるさまざまな事業プロデュースを行っている。http://moanablue.com/life