THE OWNER INTERVIEW #06
高野山ゲストハウスKokuu(コクウ)(和歌山)/ 高井良知さん・有里さん
後編 高野山の良さを世界に伝える現代の「高野聖」でありたい
日本全国に増え続けているゲストハウス。ゲストハウスプレスでは、オーナーや運営者のみなさまにお会いして、ゲストハウス運営に込められた思いや目的などをインタビュー取材し、お伝えしています。個性あふれる宿たちは、「安いから泊まる」「旅の途中だから泊まる」という従来の安宿の概念を越え、ホテルや旅館とも違う新しい旅の概念を、あなたに教えてくれるかもしれません。
高野山(こうやさん)は、和歌山県北部・紀伊山地の端にあたる伊都郡高野町にありますが、実は高野山という山があるわけではありません。周囲1,000m級の山々に囲まれた標高約800mの平坦地を平安時代に空海が開創、宗教都市として開山したのが816年のこと。高野山真言宗総本山金剛峯寺としてその後日本仏教の聖地として今も脈々と伝統が受け継がれています。2004年には熊野、吉野・大峯と共に『紀伊山地の霊場と参詣道』としてユネスコの世界遺産に登録され、世界的な観光地となりました。
そんな高野山の中にあるのが高野山ゲストハウス「Kokuu(コクウ)」。高野山で生まれ、親兄弟も僧侶をされるなか、ご自身は寺とは離れた生活をしていた高井良知さんが故郷に戻って2012年に開業させたゲストハウスです。Vol.6ではコクウのオーナー高井良知さん・友里さんに高野山の魅力やゲストハウス運営についてお聞きしています。後編では、高野山でゲストハウスをやる意味や思いについてじっくりとお話を聞かせていただきました。
(※2014年5月取材/全2回連載)聞き手:西村祐子(ゲストハウスプレス編集長)
−−− #6 前編から続きます
高野山だからこそ、敢えての新築。建築家に依頼し設計・施工
−−− この宿は新築で建てられて、外はグレーでシック、対して内部は真っ白な空間が印象的ですが、このデザインはどのように決めていったのですか?キーワードで「シンプル」というのは出たのかな、と想像しましたが。
高井良知さん(以下良知):それはありますね。全体の構想はいろいろ自分たちで調べて、好みが近い京都の建築ユニット・アルファヴィル一級建築所にお願いして進めていきました。そもそも高野山は歴史が古い建物があって当たり前。もともとこの場所には昭和の普通の家が建っていましたが、そこを改装するよりは、ぐっと新しいものを作りたいと考えました。
僕らは予算も限られていたので、それを前提に考えていただきました。もともと柱が見える2×4の工法というのは、セルフビルドでできるくらいの簡単な構造なんです。彼らはもう少しコクウより小さい規模の似たものを、震災後に東北の人でもセルフビルドでつくれるという建築で考えておられて、コクウのデザインはそれの発展形でもあります。
−−− 廊下を真ん中に入れて、左右をカプセルタイプにするというのも先方のアイデアだったのですか?
高井有里さん(以下有里): カプセルに関しては、いろいろこちらから提案しました。ゲストハウスなど他の宿泊施設を見に行ったときに、カプセルホテルは日本独特の発想でおもしろいし、プライバシーが保てるという点がいいなということで採用してもらいました。
良知:あともうひとつ、山小屋っぽくしたいというのがありました。長野のほうに燕岳(つばくろだけ)っていう山があって、そこに燕山荘という有名な山小屋があるんです。山小屋もベッドが二段になっていてそこで寝るんですけど、そのイメージもありました。でもそんなガッチガチの山小屋よりはもう少しシュッとしたスタイリッシュなものが好きなので・・・。
−−− カプセルでシンプルで、山小屋テイスト。確かにここはそうなっていますね!
良知:よく北欧から来たゲストが、「北欧の家みたい」と言われるんですが、全くそんな考えたことなくて。白くて木造建築っていうのがそういうイメージなんでしょうか。
場所柄、常にお大師さん(空海)の存在を感じる
−−− 高野山という地でゲストハウスをやっていて日々感じることはありますか?
有里: 高野山で宿ができているっていう贅沢さを感じます。宗教都市という言われ方もしますが、もっとここでは神聖なものが生活に接していて、思想や生き方というものの奥深さを常に感じます。聖地で生活をさせていただいている感覚がありますね。
良知:ここに住んでいるとお大師さんのことを意識せざるを得ないんです。
有名な言葉で「ありがたや たかのの山の 岩かげに 大師はいまだ おわしますなる」というのがあって、意味はお大師さんはずっと見てくれてますよ、ということなんですが、実際高野山ってすごく守られている感じがします。
ゲストの方で、走って日本一周した人がいて。高野山からスタートして高野山に帰ってこられたんですが、「やっぱり高野山みたいなとこは日本中どこを探してもなかったです」って言っていたのが印象的でした。
−−− 確かに想像以上に高野山の雰囲気ってちょっと特殊だなとわたしも感じます。
良知: ここは聖と俗が混在しているんです。例えば比叡山も宗教都市と言われていますが、山の上にお寺があって、山の下が町になっていますが分在している。でも高野山は町とお寺が一体化していて、しかも奥の院には、普通の人から江戸時代の誰もが知っているような豊臣秀吉のような人のお墓もあって、それらがすべてが平等にある。そういうのが密教らしくておもしろいな、と思いますね。
高野山の良さを伝える現代の「高野聖」でありたい
良知: 昔は「高野聖(こうやひじり)」と呼ばれる人がいました。彼らはお坊さんではなく、全国行脚して高野山のことを広めるっていう宣教師みたいな人でした。だから全国どこ行ってもお大師さんの話があって、ここはお大師さんが掘った井戸だとか温泉とか、そういうのが全国にあるんですよね。
1200年間、信仰が途切れることなくあるのは、高野聖のおかげでもあるんですけど、僕らも来てもらってお客さんに、高野山のよさとか素晴らしさを世界の人に、「高野山よかった」って言ってもらえるよう伝えることをしていて。宗教としての仏教をどうこうしたいとは思ってないですし、坊さんではないので、まさに僕らは現代の高野聖だな、って思ったんです。
−−− 確かに!しかも世界中の人にだからスケールも大きくなっている。
良知: 今まで高野山は、来て日帰りで帰っていく人も多かったんですが、ここが出来たことで「君らがいるから泊まりで滞在できる」と言われることもあります。まずはコクウに泊まってみようと来られて、そこから高野山のおすすめをお教えしたり、高野山自体じゃなく、ハイキングがきっかけで高野山に興味を持ってくれる人が出てきたりと、高野山への間口を広げられているのはうれしいですね。
−−− 高野山といえばお寺が運営している宿坊がありますが、そちらはもう少し顧客の年齢層が上がるイメージがあります。お2人のような30代のご夫婦がやるゲストハウスは、まったく違うアプローチなので、選択肢も増えてとてもよいですよね。
良知: 宿坊もいろいろですが、旅館のようにテレビがあったりして豪華なところも多いです。ここのほうがよっぽどお寺っぽいというか、シンプルですよね。お坊さんもたまに「気分を変えたい」といってここに泊まることもあったりします。最初は宿坊の存在は意識していたんですけど、運営しているうちに仲間も増えて共存関係になりました。
−−− お寺も代替わりなどあって、きっと新しい考えを持った人も増えていますよね。
良知: はい、もちろん。一緒に仲良くさせてもらっている恵光院(えこういん)さんは、夜の高野山を巡るナイトツアーというのをやっていて、お客さんに案内することもあります。恵光院さんもわりとやんちゃな坊さんばっかりなんです(笑)。でも「高野山をよかったと思ってもらいたい」というのがすごく強い。表現の仕方は違うけれど、僕らも思いは一緒なんですよね。
コクウでも例えば奥の院の朝の聖域を案内したり、金剛峯寺のまわり方や阿字観をおすすめするなど、高野山の魅力をより広くいろんな方に知ってもらえるよう工夫をしています。これからも広く深く高野山とその周辺地域の魅力を知ってもらえるよう、さらに活動の幅も広げていけたらと考えています。
−−−了−−−
次回のTHE OWNER INTERVIEW #07 は山口県萩市にある萩ゲストハウスRucoの塩満直弘さんです。どうぞお楽しみに!
(THE OWNER INTERVIEW #07 へ)
高野山ゲストハウスKokuu(コクウ)
空海が開いた宗教都市・高野山に建つシンプルで白い空間が印象的なゲストハウス。伝統ある宿坊が立ち並ぶ高野山にあって、真新しい建物とカプセルスタイル、英語対応OK、バーも併設。
〒648-0211 和歌山県伊都郡高野町高野山49番地43
Webサイト:http://koyasanguesthouse.com