ゲストハウスプレスー日本の旅の、あたらしいかたち。

 

島旅の記憶#01 一瞬の躊躇(直島)

島旅の記憶#01 一瞬の躊躇(直島)

日本の中でも離島と呼ばれる小さな島は、独特の雰囲気があります。離島にはまだ「ゲストハウス」という形態の宿は多くありませんが、ここでは、ゲストハウスという形態にはこだわらず、島ならではの旅のあり方、試みが行われている島を中心に、エッセイ形式でその魅力をご紹介します。

とバイクは相性がいい。もしこのふたつを星占いで占ったらその相性度は80%を超えるんじゃないだろうか。

その日の午後、私は瀬戸内国際芸術祭に湧く瀬戸内海の島、直島(なおしま)で、予約していた本村地区にあるゲストハウスに向かうため、島内を走る小型の島内バスの停留所を降りて、やや簡略化された地図を見ながら、本当にここで合っているのか?と自問自答しつつ歩いていた。キョロキョロと目印になるものを探していると、ふと民家の屋根のあたりにレンタサイクル・レンタルバイク、と書いてあるのを見つけた。

そうか、バイクか・・・原付があれば、島の機動力としては最高かも。下調べしてこなかったけど、もともと20代の頃に原付カブで一週間かけて紀伊半島キャンプ旅なんてのをやっていたこともある私が、この看板からの素敵な提案に乗らないなんてありえないことだった。

 

看板がかかっている建物は、二階建てで、玄関先にこども用の自転車や遊具が置かれていて、どうみても営業しているようには見えない、ごく一般的な民家だったけれど、思い切って玄関のチャイムをならしてみた。

 

…。誰も出ない。いったんは、そこで諦めかけた。けど、どうしても気になる。スクーターがあれば、徒歩では出来ない島一周も出来るし、バスの時刻表とにらめっこして、時間に追われることもない。どんどん想像とやりたいことの妄想が広がっていく。チェックインしたゲストハウスのオーナーに聞いてみても、今も営業してるはずとのこと。

再度その場所にいってチャイムを再び押すが、無音。看板をふたたび見てみると、そこにはお店の電話番号が書かれてあった。

 

別に人見知りするタイプではないほうだとは思うのだけれど、なんでもネットで予約できてしまう昨今、なんとなく「見知らぬ誰かやどこかに電話する」という行為が、ちょっと面倒になってしまうことがある。でも、旅に出たなら、それもひとり旅なら、そのちょっとした臆病や躊躇は、できるだけドブにでも捨てたほうが、何倍もその先面白くなるものだ。

 

一瞬の間を置いて、地図を見ていたスマホを電話機能に切り替えて、ボタンを押した。

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売店の品揃えで「島」を感じる

すると、すぐに店の人が出て、「ああ、場所が変わったんです。お一人ですか?」と聞いたのち、「そこで10分ほど待っててください」と言った。

 

そんなことでもなければ立ち止まらない、現代アートも何もないなんてことのない道端で、所在なげに立っているのももったいないから、と、カメラを取り出してぶらぶら歩きながら撮影をしてみることにした。

陽がななめに差している坂道とガードレール。くるくる廻るサインだけが目立っていて肝心の場所がよくわからない謎の理容院。小さな生協のような販売所に入ってみると、パンは毎日入荷しないのかあるのは賞味期限が長い天然酵母パンだけ、他には缶詰や日用品しか置いてないシンプルな構成の品揃え。

 

ああ、これが「島のふつう」なんだよね。なんでもあるようで、やっぱり今すぐ!は手に入らない。何か特別なものを買うためには、船で岡山や高松に出なくちゃいけない。

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散策がおもしろくなってきたところで、待ち合わせ場所に戻ってみると、レンタル屋さんのおにいさんが、白い軽トラで待ってくれていた。ああ、だから人数聞いたのか。ひとりしか軽トラだと載せられないもんね。
「今は、港の前で営業してるんですよ」と言いながら、さっき宇野港から乗ってきて下船したばかりの、草間彌生の赤い水玉かぼちゃオブジェがある港の前でわたしを降ろしてくれた。遠足で来ているのか、高校生たちがわいわいとオブジェの中に入って記念撮影していた。

直島は原付バイクか電動アシスト自転車で周るのがいい

離島というと、一周三キロでぐるっと歩いて2時間、みたいなところを思い浮かべる人が多いけれど、実は歩いて廻れるほど小さな島で、観光客も来る、なんてところは日本国じゅうごく限られていて、そこまで小さくはないけれど、レンタカーを借りたりクルマで乗り付けるほどには大きくない島、というのが一番多い気がする。

つまり機動力はあるけど、小回りのきく原付バイクが効力を発揮しやすいのだ。だったら自転車でも、と思うが、日本の島は、だいたいにおいてものすごくアップダウンが多く、よっぽどの体力自慢じゃない限りツラいのだ。…つまり、わたしはツラいの嫌いってこと。

「バイクが一番お勧めだけど、電動アシスト自転車もいいよ。坂でもモーターで勝手に進んでくれるから」ほう、時代が進んでいる・・・。軽トラの中で、お店の人が私の知らないそんな情報も教えてくれた。

借りた原付スクーターで走りはじめてほんの数分、宮浦港のはずれに、セルフのうどん屋を発見。すかさず進路変更、本場さぬきに近いここ直島ならではの価格と手軽さで、まるで3時のオヤツのように「温玉ぶっかけ(冷)ちくわ天載せ」を食べたあと、夕方、人が一番減るであろうベネッセアートミュージアムのひとつ地中美術館を目指してスクーターを走らせたのだった。

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直島 information

アクセス

岡山方面または香川県高松からフェリーと連絡船が出ています。
瀬戸内国際芸術祭がある年(2016年は春〜秋会期があります)は、臨時船やバスなども出ますが、人気のある島のため、島内の移動手段の確保が大切。レンタルバイクや自転車も数が限られているので、予約をしておくほうが確実です。

参考サイト:素顔の直島(直島観光協会)

直島

Written by

西村祐子 / ゲストハウスプレス編集長  : 「好きなことをして生きる」を実践するべく活動するライフクリエイター。2017年より神奈川の海辺から大阪にUターン。現在はあたらしい旅と暮らしの発信基地Wanderers!の運営をはじめ、 旅にまつわるさまざまな事業プロデュースを行っている。http://moanablue.com/life