ゲストハウスプレスー日本の旅の、あたらしいかたち。

 

#03 ゲストハウス有鄰庵(岡山)後編

THE OWNER INTERVIEW #03
倉敷ゲストハウスくるま座有鄰庵(岡山)/ 中村功芳さん

後編 しあわせプリンで拡がる交流の輪

本全国に増えているホステルスタイルの宿「ゲストハウス」。ゲストハウスプレスでは、オーナーや運営者へのインタビューを通して、ゲストハウス運営に込められた深い想いや目的がどのようなものかをお伝えします。ご紹介する個性あふれる宿たちは、「安いから泊まる」「旅の途中だから泊まる」という従来の安宿の概念を越え、ホテルや旅館とも違う、新しい旅の概念を、あなたに教えてくれるかもしれません。

第3回目のオーナーインタビューは、岡山県倉敷市にて2011年5月、ゲストハウス「くるま座」有鄰庵(ゆうりんあん)を開業された庵主中村功芳(なかむらあつよし)さんです。地元岡山県倉敷市に生まれ育った中村さんが倉敷美観地区の中でゲストハウスを開業し、カフェの名物プリンができるまでのストーリーとそこ込めた想いとは?
(全2回連載)聞き手:西村祐子(ゲストハウスプレス編集長)

THE OWNER INTERVIEW #03 前編からの続きです。

難航した美観地区内でのゲストハウスづくり

−−−ゲストハウスをやろう!と決められてからは、スムーズに事が運んだのですか?

中村:いや、大変でした。僕は倉敷で宿をやるなら、倉敷の中でも特別な場所・観光地としても伝統としても一等地である美観地区の中でやりたいと思っていたので、まずここだという物件がなくて。

そんなとき、地元の繋がりで美観地区の中のお店が廃業して空いたという話が入ってきました。ところがよく話を聞いてみると、やはり観光地のど真ん中の一等地だけあって、既に競合が20社あって、しかもほぼある大企業さんに内定しているということがわかりました。

倉敷美観地区の整えられた古い街並み
倉敷美観地区の整えられた古い街並み

通常、ゲストハウスがある場所って駅から少し離れているとか、ちょっと不便な場所にあったりするじゃないですか。そういう場所なら家賃も安かったり、空き家も多かったりして探しやすいんですが、ここ(有鄰庵がある場所)は、倉敷川から歩いて2分もかからない、本当に美観地区のど真ん中にある場所で、美観地区を訪れる人は必ずといっていいほど通る場所なんですね。ということは・・・

−−−お家賃が少々お高い・・・ということですよね?

中村:その通りです。しかも他の競合他社さんは、大企業で資金力も豊富、僕は個人で、しかもゲストハウスをやりたい、と。まず、ゲストハウスとは何か?というところから説明する必要がありました。

美観地区の中にこだわったのは、やはりこの場所が倉敷イズムと呼ばれるよい伝統を受け継いでいる地盤だから。日本初の美術館・大原美術館をはじめ、この白壁の街並みを密集させて作ったのも、80年前、当時世界を見てまわってそのパワーを持ち帰って、日本の倉敷のまちの良さを拡大させた大原孫三郎の精神が、美観地区には強く残っていると感じているからです。

僕もその精神を受け継いで、有鄰庵で世界に羽ばたく人たちを育てたい。そのためには美観地区のど真ん中である必要があると思ったのです。

まちの有力者を熱い情熱で巻き込みながら動く

中村:とはいえ、物件はほとんどもう他社に内定している状態でしたから、とにかくなんとかしてこのチャンスをものにしたい、と懸命に頑張りました。

「倉敷の伝統を世界へ。ゲストハウスをやることで、世界中から倉敷に人がやってくるようになる!ゲストハウスこそが、今、倉敷の伝統を新たに創りだす大きなツールなのだ!」ということを、倉敷の地元有力者の方にお会いしてお話しました。僕には資金力や組織がありません、情熱しかない。でも、情熱だけなら誰にも負けない自信がありました。

−−−その時、年配の方などは、ゲストハウスという存在自体をご存知ない方も多かったと思いますが、ゲストハウスについての理解は得られたのですか?

中村:はい。僕がゲストハウスでやりたいことについての理解はしてもらえました。それで物件のプレゼンのときにも地元の有力者の皆さんに応援して頂けることになり、それで悪条件の中、ゲストハウスとしてこの家を借りられることになったわけです。

ここ最近、有鄰庵に世界中から実際に多くの人に来てもらえるようになって、ようやく僕の言っていたことーゲストハウスで倉敷と世界を繋ぐー、を実感していただけたかな?まだまだ自分のやりたいことの半分も実現出来ていませんけれど。

ゲストハウスへの想いを熱く語る中村さん
ゲストハウスへの想いを熱く語る中村さん

ラムネ売りから始めたカフェ運営

−−−今の有鄰庵は宿泊だけでなく、昼間はカフェをされていますが、最初から両方する予定だったのですか?

中村:いえ、無事宿はオープンできたんですけど、最初はカフェはやっていませんでした。

ゲストハウスは宿泊代金が安い。うちは一泊3,500円と、ゲストハウスとしては安い方ではないですが、やはり家賃のことを考えると余裕がないな、とオープンしてから気づいたんです。それで、なんとかせなあかん、と。

だから最初は僕ひとりで、暑いさなかだったので冷えたラムネを売っとったんです。人通りは多い場所ですし、最初からものすごく売れました。でも、ラムネをいくら売っても、売上としては大した金額じゃないんですよね・・・。

それで、そこからどうしたら売上が上がるのか?そして僕のやりたいこととマッチするものとはなにか?と徹底的に戦略を練りはじめました。そうして考えた末に出来上がったのが、今有鄰庵カフェで販売している「しあわせプリン」です。

1日80個限定で売り切れも多い有鄰庵カフェ名物の「しあわせプリン」
1日80個限定で売り切れも多い有鄰庵カフェ名物の「しあわせプリン」

幸せをみつけるための「しあわせプリン」

−−−しあわせプリン、サッパリしてるけど、濃厚で美味しかったです。あとプリンの顔がカワイイですね。「これを食べたらしあわせになれる」というストーリー性もまたおもしろいなと思いましたが、こだわったポイントなどを教えてください。

中村:こだわったのは、倉敷に来た人が、しあわせな気分になって帰ってもらいたい、ということ。たまたま、友達が手作りのプリンを作ったので、じゃあ、一緒にやろう、ということになって、一緒にしあわせプリンというのをつくろう、ということになりました。

まず、プリンを注文したら、その場で写メを撮ってもらって、1週間か2週間経ってその写メを見たら幸せになるような味にしてもらいました。

−−−??幸せになる味って・・・どういう味でしょう?

中村:ラーメンでも濃い味だとあとで残って思い出したりしませんか?そういう感じで、ちょっと濃い目の味に濃厚な味にしてもらって、それで、思い出してもらえるといいなという風に考えました。

それで、2週間後にその写メを見たら幸せになれるよ、というストーリーを紹介しながら販売しました。そして、本当に幸せになったよっていうようなエピソードがあって、思い出した人は、また有鄰庵へ来てノートに報告に書きに来てね、って言ったら、1年間で800人の方が、報告にきてくれたんです。

しあわせプリンのエピソードがたくさん書かれたフォトアルバム
しあわせプリンのエピソードがたくさん書かれたフォトアルバム

−−−そのストーリーはいつ、どんな風に紹介を?

中村:お客さんがプリンを食べているときにカフェのスタッフがお話ししました。基本的にしあわせプリンは持ち帰りができないんです。ただ、その時カフェで食べて、ここにまた報告を書きにきてくれて戻ってきた人には、しあわせになったという証明ですから、その人は持って帰ってもよい。

−−−リピーターしか持ち帰れない!

中村:そう、幸せになった人はその証明ですからいいんですけど、そうじゃない人は「幸せになっとらんじゃないか!」ということになるわけですからね(笑)。

なかには結婚したカップルが2組。長野の人が今度結婚することになったんです。2週間以内にプロポーズされて決まったんですよね。そういう話を当事者がお友達にしたら、みんなでお礼に行こうということになって、友達4人連れて幸せをシェアするために、みんなで来てくれたり、だとか。

あとは、フランスから来た人で、その方は有鄰庵に泊まって、プリンを食べてくれたのですが、その後いいことがあった、と。それは、フランスに帰ったら子供ができてることが判明した、とか。本当にありがとうとお礼をもらったりしました。

しあわせプリンの記憶とともに過ごす2週間

中村:しあわせプリンのエピソードでは、一番本質を捉えてくれた男の子がいました。その子は、カフェでプリンを食べて、しあわせがやってくるという2週間後が来るのをとても楽しみにしてたんですね。だいたい女の子はすごく楽しみにするんですけど、男性はちょっと珍しくて、で、2週間後何かあるなと思ってワクワクワクワクしていたらしいんです。

そうしたら彼はその後インフルエンザにかかって、入院しちゃったらしいんですよ。「プリン食べて幸せになるはずなのになんで?」って思っていたけれど、その2週間経ったある日に、「そうだ、今日だ」と思って写メを見た。

とその時に、「なるほどな、と思った」と言うわけです。

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中村:そのとき、彼はインフルエンザで入院してしまうってことは最悪なことだと思っていたけれど、よく考えたら、今、自分の目の前には親切な看護師さんがいて、看病してくれている。僕は幸せです、と。

そして、「よくよく考えると、たぶん2週間のあいだって、きっと幸せなことってたくさん自分のまわりで起こっていたはずなのに、自分はそれを見てなかった。しあわせプリンを食べて、写メのことを思い出すことで、その(本当はいつも起こっている)幸せに気づかせるためにしあわせプリンは存在したんですね」とメールをくれたんです。

幸せはいつでもどこでも感じられるもの

中村:毎日幸せなことって実はいっぱいあるはずなんです。それをなにか幸せなことないかな?ないかな?という風に探すことで、どこかで頭を切り替えて、よし、2週間で幸せなことを発見しよう!という心に作用するような仕掛けにしたかった。

彼はそれをわかってくれました。それが僕のしあわせプリンに込めた本当の思いなんです。自分でさがすと、幸せっていっぱいあるよ。というのが、しあわせプリンの本質です。ノートや2週間のエピソードっていうのは、それを発見してもらうための仕掛けなだけなんです。

自分も幸せだし、まわりの人も幸せになっている姿を見るのもしあわせだし、そういうふうに伝搬していくとよいなという思いでやっています。それが僕が有鄰庵で伝えたいことの本質でもあるわけです。

−−−最近は、しあわせプリン以外のメニューもいろいろ工夫されていますね。

中村:夏は岡山名産の桃をつかった桃のかき氷やジュース、冬はおでんなども店頭で販売しています。あとは、宿のほうで朝ごはんをやり始めました。

岡山の地卵を使ったたまごかけご飯を提供していて、こちらもありがたいことに評判がよいです。ひとつのメニューや仕掛けに頼ることなく、これからもいろんな土地のものや人と繋がって、紹介していけたらと思っています。

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THE OWNER INTERVIEW #04  は、山梨県山中湖村の宿 ホトリニテ・高村直喜さんです。

倉敷ゲストハウス「くるま座」有鄰庵 http://www.u-rin.com

岡山県倉敷市・倉敷美観地区の中心部にある古民家を利用したゲストハウス&カフェ。

JR倉敷駅より徒歩15分
料金:男女別相部屋1泊3,780円〜連泊割引あり
一部屋貸しの場合はお部屋によって料金が変動します。

〒710-0054 岡山県倉敷市本町2-15
TEL 086-426-1180(8:00〜23:00)
ご予約は公式サイト予約フォーム等より

ゲストハウス有鄰庵に行ったらやりたい5つのこと

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西村祐子 / ゲストハウスプレス編集長  : 「好きなことをして生きる」を実践するべく活動するライフクリエイター。2017年より神奈川の海辺から大阪にUターン。現在はあたらしい旅と暮らしの発信基地Wanderers!の運営をはじめ、 旅にまつわるさまざまな事業プロデュースを行っている。http://moanablue.com/life